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御曹司、釣れちゃいました。 Page2

last update publish date: 2026-10-10 14:15:25

 ――未練なんて残さないつもりだったのに、どうしてこんなに虚しいのだろう。そもそも、この虚しさの原因は本当に翔太への未練なのだろうか? ただ、私のこれまでの努力や積み上げてきたキャリアを、アイツに「可愛げのない女」の一言で全否定されたからかもしれないけれど……。

「……あの、藍さん。僕から一言いいかな?」

「はい? ……ええ、どうぞ」

「藍さんは『可愛げのない女性』なんかじゃないと思う。僕の見た限りではすごく美人だし、スタイルもいいし。でもそれだけじゃなくて、内面からの美しさが表に現れているというか。自分のキャリアを誇ほこりに思っているからだと思うけど、すごくキラキラして見えるよ。僕はそういう女性こそ魅力的だと思う。ハッキリ言って、あの元カレの目は節穴ふしあなだ。あんな、若いだけで頭の悪そうな女性に惹かれるなんて。……おっと、これは失言かな。うっかり心の声が出てしまった」

「…………はぁ」

 私のことはベタ褒ほめするくせに、翔太と怜のことはボロカスに毒舌を吐きまくる芹澤さんを、私は不思議な感情を抱きながら見ていた。……ヤバい。私、本当に彼のことを好きになってしまうかもしれない。

「――それはともかく、あの二人とは同じ会社なんだよね? 週明けから居心地悪くなるんじゃないか?」

 今日が週末の金曜日でよかった。とりあえず明日と明後日あさってはあの二人と顔を合わせずに済むからだ。とはいえ、週明けからは翔太はともかく、受付嬢である怜とはイヤでも顔を合わせることになる。その時にあの女が私にマウントを取ってくることも目に見えていて、何だかムカつく。

「そうですね……。元カレはともかく、受付嬢とは顔を合わせないわけにもいきませんから。あの女の勝ち誇ったような顔を見ただけではらわたが煮えくり返りそうです」

「だったら、思い切って転職するのもひとつの手だと思う。そこで、だ。藍さん、ウチの会社に来ないか?」

「……えっ? 転職……ですか?」

 思いがけない話しの展開に、私は目をしばたたかせた。この人――芹澤さんは、自分に(巻き添えとはいえ)水をぶっかけた張本人である私にそこまで親切にしてくれるのだろう?

「うん。ちょうど、僕の第二秘書が実家の都合で退職してしまってね、欠員が出たんで募集をかけているところなんだ。藍さんもそれに応募するといいよ。ちなみに月収は七十万円で、年に二回ボーナスも出て、副社長秘書なら役職手当もつく。年収は……ザッと千二百万ってところかな。しかも、総合職で入社してもらうから、行く行くは秘書課長のポストが待ってる。……どうだろう? 悪くない待遇だと思わないか?」

「いえいえ。悪くないどころか、めちゃくちゃ好待遇じゃないですか。……でもいいんですか?」

「藍さんがいいならね。とはいっても、コネで入社させるわけじゃないよ。採用面接はキチンと受けてもらうし、もしかしたらそれで藍さんにとっては残念な結果になるかもしれない。あくまでも、これは選択肢のうちのひとつだと考えてくれて構わないけど。受けるなら早いに越したことはないと思う」

「…………はい、分かりました。ありがとうございます。これから前職の退職に向けての手続きや引継ぎもありますので……、お返事はそれからでも構いませんか? 半月もお待たせすることはないと思いますので」

「うん、僕はそれで構わないよ。――それじゃ、連絡先を交換しておこうか。決心がついたら僕の携帯番号に電話をくれてもいいし、メッセージアプリで連絡をくれてもいい」

「いいですよ。交換しましょう」

 私と芹澤さんは、お互いのスマートフォンを出して連絡先を好感した。ついでに、メッセージアプリのアカウントも。

「……これでよし、と。それじゃ藍さん、連絡待ってるからね」

「はい。芹澤さん、今日は色々とありがとうございました。あと、本当にすみませんでした。……クリーニング代、本当に払わなくていいんですね?」

「だから大丈夫だって。あと、できたら僕のことも下の名前で呼んでくれたら嬉しいな」

「…………はい。それじゃ、悠巳さん。もしそちらの会社でお世話になることになったら、その時はよろしくお願いします」

「うん。楽しみに待ってるよ、君と一緒に働けるのを。それじゃ藍さん、またね」

「はい、……また近いうちに。失礼します」 

 私は悠巳さんに見送られながら、駅に向かって歩き出す。まだそれほど暗くなっていないので、女性がひとりで歩いていても大丈夫だろう。……一応、護身術に合気道くらいは習得しているし(それも有段者である)。

「はー、お腹すいたな……。今日の夕飯何にしよう?」

 ひとり暮らしで自炊もしているので、歩きながら冷蔵庫の中身を思い出し、夕飯のメニューを考えていた。今日の夕飯は食が進みそうだな、なんて思いながら。

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